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最高裁判所第一小法廷 昭和34年(あ)2198号 決定 1960年3月31日

主文

本件上告を棄却する。

理由

弁護人本間大吉の上告趣意について

たばこ専売法七五条はたばこの専売によって、国の財政収入を確保せんとする目的の為めに不正たばこの販売等の取締を厳に励行すべく、犯則物件または、これに代るべき価額が犯則者の手裡に存することを禁止する趣旨に出ているのであるから(昭和二九年(あ)第二六五七号、同三一年一二月二八日第二小法廷判決、刑集一〇巻一二号一八一一頁以下参照)、同条二項は所論のように犯罪にかかる物件が没収不能の場合、犯罪に因る不正な利益を犯人の手許に残させないという意味だけのものではなく、原判示の日本専売公社の売渡さない製造たばこをその盗賍品であることを知りながら譲り受けたような場合には、たとい、右たばこを入手するため代金を支払ったとしても、譲受人から右代金を控除することなく、違反にかかる製造たばこの価額を追徴させる趣意のものと解するを相当とする。されば、原判決が所論支払代金を控除することなく判示金額の追徴を命じたのは正当であって、原判決には右法条の解釈を誤ったかきんありというを得ない。論旨はひっきょう原審が右法条の解釈を誤ってこれを適用したという前提に立って違憲を主張するものであるから、その前提を欠き採るを得ない。(ただし、原判決は、第一審判決が追徴額算定の基礎となる不法譲受にかかる不正たばこの数量を確定しないから理由を附さない違法があるとの理由でこれを破棄している。しかるに、原判決自体は、法律適用の箇所において、追徴につきたばこ専売法七五条二項を適用する旨判示しているだけで、本件では同条項所定のいかなる理由で没収できないから追徴するのか、その追徴額算定の具体的基礎価額等につき何等判示するところがない。従って、原判決には追徴理由を判示しない理由不備の違法があるものといわなければならない。しかし、原判決の証拠として引用する被告人の供述調書によれば、被告人は本件譲受たばこの大部分を他に譲り渡し、一部を自己において消費し全部没収できなくなったことが明らかであり、また、同追徴金算出書類によれば、本件ピース一個の価格は金四〇円、キャメル一個、フィリップモリス一個の価格は夫々金一三〇円、葉巻一本の価格は金六〇円であることも明白であるから、結局判示たばこ全部を没収できないものとして算数上明白な判示金額を被告人から追徴したことを是認できるから、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するものとは認められない。)

よって刑訴四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 下飯坂潤夫 裁判官 斎藤悠輔 裁判官 入江俊郎 裁判官 高木常七)

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